こたけ整形外科

第四回  整形でアンチエイジング?

整形でアンチエイジング、と聞けばやはり顔のしみ取りやフェイスリフト等の美容手術を思い浮かべられたと思いますが、前回までをお読みいただいた方はもうお分かりのように、ここは整形外科のコラムですので骨、関節屋としての整形外科医からみたアンチエイジングということで、今回も背骨のお話の続きです。

前回は背骨が動かなくなってくることが実は老化の本質的な問題であるというところまでお話しました。
背骨がまったく動かなくなるとどうなるでしょう。背骨が曲がらなくなれば、おじぎひとつできないわけですが、本当はそれどころか立つことも歩くことも上手にできなくなるのです。

たとえば若さという点では赤ん坊には誰も勝てないわけですが、生まれたての赤ん坊の背骨はどうだったでしょうか、皆さん思い出してみてください。抱っこをしても 寝返りさせてもグニャグニャのフワフワで、自分からもクネクネと動いてとらえようがなかった筈です。

一方、腰痛や肩こりなどを抱えて整形外科に来られるようになった皆さんの背骨は、もう子供時代のようにしなやかには動きません。
実際レントゲンやMRIを撮って見ますと、背骨1つ1つを連結している椎間板というクッションのようなものが薄く硬くへたってきていたり、その代わりに余計な骨の出っ張り(骨棘:こつきょく といいます)が出来てきて、ついにはもともと鎖のようにしなやかな構造物だった背骨が一本の棒のように連結して動かなくなってきてしまったりもします。

その過程で一部のパーツに強い負荷がかかると急性の腰痛になりますし、椎間板や骨棘などが背骨の中を通って外に出てくる神経を圧迫すると椎間板ヘルニアや脊柱間狭窄症といった手足の痺れや痛みを伴った疾患が生じてきます。
これが背骨の老化の過程なのですが、なぜ背骨は固まって動かなくなるのでしょうか?
その答えはまた次の回に。

2008年10月01日 20:42 小竹 志郎

第三回 運動と背骨の意外な関係

前回までに整形外科の分担は 運動器つまり自分の意思で動かせる部分、およそ
背骨から手足まで首から下の内臓以外ほぼ全部、であるというお話をしました。
それをお読みになった方の中には、えっ、背骨って動くの?」と思われた方がおられるかも知れません。

実はこの背骨の動きというものが、人間の老化や運動能力と密接に結びついている
ことはまだあまり知られていません。トップレベルのアスリートのあいだではここ数年、体幹部(胴体のこと)のトレーニングの大切さが世界的に言われ始めてきているのですが。一般の皆さんには自分の目で見ることのできる手足の運動と違って からだの一番奥にある背骨を意識することは、痛みでもない限りあまり無いかと思われます。

実際私のクリニックへも私の背骨曲がっていませんか?ずれていませんか?」または「骨盤がゆがんでいるといわれたのですが」といって心配してこられる患者さんはたくさんおられますが。「いやー 最近背骨のやつが動きにくくなりましてねえ」という相談は一件もありません。

ちなみに、先の相談に来られた方々のレントゲンをとってみると、ほとんどの場合背骨や骨盤がずれやゆがみが画像上見つかることはありません。
なかには本当に背骨のゆがみ〔側わん症〕やずれ〔すべり症〕のある方もおられますが、その変形がその方の今のつらい症状の直接の原因になっていることはまれですし、そもそも本当にずれた背骨や骨盤は手でさわって形を元どおりに戻せるものではありません。ましてやそれで万病が治るわけでもありません。

背骨や骨盤にまつわる症状は多数ありますが当然無関係な疾患も多数あります。冷静に考えれば、背骨のゆがみを治せば、あるいは何かのお薬や食べ物を摂れば万病が解消される、という話はうちの会社の売り上げさえ増えれば日本の景気はよくなるはずだ、と信じ込むのと同じくらい無理のある話だとお分かりいただけると思います

話がそれましたが、本当のところは、背骨は30個以上の骨が連結してできた鎖のような構造物ですから、いろんな方向へ曲がったり少しずれたりしながら常にしなやかに動いている、これが背骨の健康な状態なのです。その能力が徐々に落ちてきて固まって動かなくなっている、つまり問題は曲がっていることではなくて 曲がらなくなっている、または曲がったままになっているということなのです。そしてこの背骨が動かなくなってくることが実は老化の本質的な問題なのですが、この先は次回ということにしましょう

2008年09月04日 15:48 小竹 志郎

第二回 運動器って何だろう

 前回は整形外科が非常に幅広いジャンルの疾患を対象とし、その内容は運動器の外科と名づけたほうがわかりやすいこと 等をお話しました
まずは整形外科の対象となる具体的な疾患や症状の主なものを並べてみますと
1.頚、背中、腰など背骨周囲の痛みやコリ 
2.手足のしびれや痛み
3.肩、ひじ、膝、股関節、足首等の関節痛
4.背骨から手足まであらゆる骨や関節の変形
5.骨折、捻挫、切り傷、擦り傷等のケガ
6.骨粗鬆症、リウマチ、痛風等の全身疾患
そのほかにもスポーツや歩行、姿勢の問題に伴う各種障害等、ざっと挙げただけでほとんどの皆さんが遭遇する身近な症状が並んでいるかと思います
これらがすべて「運動器」という聞きなれない言葉の指す範囲の問題になるわけですが、ここでいう運動とは自分の意思にもとづいて体を動かすことをさしています
その運動という行為を、人がどういう手順で体を動かすのかという別の観点から考えると
1.脳が命令を出す
2.命令が運動神経を全身に伝える
3.神経の指示どおりに筋肉が働く
4.筋肉が骨や関節を動かす
5.その結果を感覚神経が脳に伝えてまた新たに命令を出す
以上の1以外の過程を担当する各器官、具体的には神経、血管、筋肉、腱(すじ)、じん帯、骨、軟骨等整形外科の対象となるわけです。言ってみれば首から下の内臓以外ほぼ全部といっても過言ではありません
整形外科が含む広大さと意外な身近さを少しは想像していただけたでしょうか。
では次回は、人が体を動かすとはどういうことか、さらにほりすすめていきましょう

2008年05月30日 18:12 小竹 志郎

気持ちよく動いて生きる―第一回 整形外科ってどんなところ?

 皆さんは整形外科って、どんな診療をするところかご存じでしょうか。
 病院にも診療所にも皆さんの周りにはたくさんの整形外科があります。それだけ身近な科であるはずなのに、眼科、皮膚科、心臓外科といったほかの多くの科目と比べてその中身が理解されていないようですが、その理由は主に2つあると思われます。
①名前が悪い
 ”整形の手術”というと美容整形を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
 現在の整形外科はおもに四肢(し)の骨や関節、脊椎などの手術を行います。整形外科を日本に導入した際に、もともとは子供の背骨の変形を矯正するという意味のorthopaedicsという言葉を「整形」と訳したそうです。
 しかし、その訳語が美容整形という言葉の流通力に負けてしまい、整形外科の実際の仕事内容と名前との間に意味のずれが生じたわけです。
 例えば、骨関節外科や運動器科とでもつけておけば、もう少し皆さんに分かっていただけたのではないかという意見もあります。
 ちなみに医療業界のジャンル分けから言うと、美容整形は美容外科、形成外科、皮膚科などの領域になりますし、外科は消化器、循環器など高度に専門化してその専門領域の内臓の手術を担当しますので、手足の外傷などはあまり扱いません。
 手塚治虫さんの漫画のブラックジャックのように、脳や心臓、手足の骨折などまで何でも手術する天才外科医は現実には存在しないということです。
 そういう専門化した現代医療のなかで整形外科が分かりにくい理由の2つめは
②整形外科の担当領域が広すぎる ということです
 もちろん整形外科の中でもさらに専門分野がひしめいていますので、たとえば整形外科のスポーツ専門医には、ひざの中の特定の靭(じん)帯の手術だけをするような先生もおられるのですが、整形外科全体としては頚(くび)から下の内臓以外のほぼ全域にわたり膨大なジャンルが広がっています。
 というあたりで字数も尽(つ)きましたので、次回は具体的にどんな症状のときに整形外科に行くべきか、をお話します。

キャッチ
専門化した現代医療
膨大な領域を診療する科

2008年04月15日 11:00 小竹 志郎

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